#1 「良い説明」を探る
社会科学における研究の目的とは何だろうか。この問いに対して,唯一の決定的な答えを示すことは容易ではない。研究者の立場や問題関心は多様であり,また研究の目的そのものが,学術研究に携わる者にとって繰り返し問い直されるべきテーマだからである。
それでもなお,社会科学研究の中心的な目的の一つが,社会現象を「説明すること」にあるという点については,多くの研究者の間で共有されているだろう。現代社会には,経済的不平等や世界各地で続く紛争をはじめとして,さまざまな課題が存在している。多くの人々は,こうした問題の解決や,より良い社会の実現に貢献したいと考えている。しかし,具体的な解決策を検討し,実践に移すためには,まず「なぜ経済的不平等が生じるのか」「なぜ紛争は繰り返し発生するのか」といった根本的な問いに答える必要がある。
この意味において,より良い社会を構想し実現していくためには,現在生じている現象や過去に生じた出来事を深く理解することが不可欠である。そのような理解を支えるのが,社会現象に対して体系的かつ根拠に基づいた説明を与える営みである。
また,説明という行為はなにも学術研究に特有のものではない。日常生活においても,わたしたちは意識するか否かにかかわらず絶えず説明を試みている。たとえば,「なぜあの人は機嫌が悪いのだろうか」「なぜ今日は頭痛がするのだろうか」「毎日水を与えていたにもかかわらず,なぜ花は枯れてしまったのだろうか」といった問いを立て,その理由を考えることは,日常的な説明の一例である。
では,社会科学における「良い説明」とはどのようなものだろうか。実際,「説明」という言葉は一義的な概念ではなく,そこには複数の異なる意味やアプローチが含まれている。しかし,これらは必ずしも明確に区別されることなく用いられている。そのため,このエッセイでは,社会科学における説明とは何か,そして「良い説明」とはどのようなものかについて,段階的に検討していきたい。
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